空き家の購入が決まり、手付金も払った。ところが契約のあとで「ローンが思ったほど借りられない」「家族に反対された」「冬の積雪を見て不安になった」ということは、実際に起こります。
そうなったときに気になるのは、払ったお金がどこまで戻るかです。
この記事では、売買契約をやめるときのルールを、飯綱町で空き家の取引をしている宅建士の立場から整理します。後半では、実際に裁判になった事例(東京高裁 令和5年1月31日判決)も紹介します。
結論:やめ方は3通り。どれに当たるかで戻るお金が変わる
| やめ方 | 使える条件 | 手付金 | 手付金以外に払ったお金 |
|---|---|---|---|
| 手付解除 | 相手方(売主)が契約の履行に着手する前 | 戻らない(放棄) | 戻る |
| ローン特約による解除 | 決められた期日までに融資の承認が下りない | 戻る | 戻る |
| 上のどちらでもない解除 | 相手方の合意、または違約金の支払い | 契約の定めによる | 契約の定めによる |
いちばん大事なのは、手付解除には期限があるということです。期限を過ぎると、同じ「やめたい」でも違約金の話になり、負担が大きく変わります。
手付金とは何か
手付金は、売買契約を結ぶときに買主が売主に払うお金です。最終的には代金の一部に充てられます。
民法では、特に定めがなければ手付金は「解約手付」として扱われます。解約手付とは、「このお金を手放せば契約をやめられる」という意味を持たせたお金です。
民法557条1項は次のように定めています。
買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
つまり、買主は手付金をあきらめれば、理由を問わず契約をやめられます。売主のほうからやめる場合は、受け取った手付金の倍額を買主に払うことになります。
手付金の額は、一般的には売買価格の5〜10%程度が目安です。飯綱町の空き家のように100万円台〜数百万円の物件では、数十万円になることが多いです。なお、売主が宅建業者の場合、手付金は売買価格の20%までと宅建業法で決まっています。
手付解除はいつまでできるのか
「相手方が履行に着手するまで」
手付解除ができるのは、相手方が「契約の履行に着手」するまでです。
「履行の着手」とは、判例では「客観的に外から分かる形で、契約で約束したことの一部を実行したり、そのために欠かせない準備をしたりすること」とされています(最高裁 昭和40年11月24日判決)。
売主側の例でいえば、引渡しのために所有権移転登記の準備を具体的に進めた、買主の求めに応じて工事に取りかかった、といったケースが典型です。
ここで注意したいのは、基準は「相手方」の行為だということです。買主が自分で中間金を払っていても、売主がまだ何も着手していなければ、買主は手付解除ができます。
実務では「期日」で区切ることが多い
「履行の着手」がいつなのかは、あとで争いになりやすいポイントです。そのため実際の契約書では、「手付解除は◯年◯月◯日まで」と期日を決めておくのが一般的です。
契約書を受け取ったら、まず手付解除の期日を確認してください。この日を過ぎると、手付金を放棄するだけではやめられなくなります。
ローン特約:融資が下りなければ白紙に戻せる
ローンを使って買う場合、契約書には「ローン特約(融資利用の特約)」を入れるのが一般的です。
決められた期日までに融資の承認が得られなかったときは、買主は契約を解除でき、手付金も全額戻ります。いわゆる「白紙解除」です。
ただし、何でも白紙にできるわけではありません。次の点を契約前に確認してください。
- 金融機関名、借入金額、承認の期日が具体的に書かれているか
- 「一部しか承認されなかった場合(減額承認)」も解除できる書き方になっているか
- 期日を過ぎたらローン特約は使えなくなる
- 買主が融資の手続きを怠った場合は使えない
空き家はローンが付きにくいことがある
田舎の空き家では、この点が特に大事です。築年数が古い、市街化調整区域にある、農地や山林が一緒になっているといった物件は、金融機関の担保評価が低く、希望額を借りられないことがあります。
契約の前に金融機関の事前審査を受け、どのくらい借りられそうかをつかんでおくと安心です。
実際にあった裁判:「手付解除」とはっきり言わなくても認められた事例
ここからは、手付解除をめぐって実際に争われた事例を紹介します。一般財団法人 不動産適正取引推進機構(RETIO)の判例検索で公開されている事案です。
どんな事案だったか
- 平成30年11月、買主が売主業者から新築マンションの一室を5,298万円で購入する契約を結んだ
- 手付金530万円と、1回目の中間金530万円を支払った
- 残りの代金の一部は融資を使う予定だったが、申し込んだ金融機関からは希望額より少ない額しか承認されなかった
- 買主は、売主から「令和元年になれば所得が増えて融資額が約3,000万円になる」と説明されたのに実際は違った、と主張した
- 令和元年9月、買主は売主に電話で契約をやめたいと伝えた。売主は「手付放棄による解除しか応じられない」と答えた
- ところが解約手続きの当日、買主側の弁護士は白紙解除と、手付金・中間金の全額返還を求めた。話はまとまらず裁判になった
裁判所の判断
第一審(東京地裁 令和4年4月7日判決)は、買主の請求をすべて退けました。「解除の意思表示が手付解除の趣旨でなされたことが、相手方にも容易に認識できるような状況が必要」という理由です。
これに対して控訴審(東京高裁 令和5年1月31日判決)は、買主が電話で解除を申し入れ、その後、手付放棄による解約手続きの日程調整まで進んでいたという一連の経緯から、手付放棄による解除の「黙示の意思表示」があったと認めました。
その結果、手付金530万円は戻りませんでしたが、1回目の中間金530万円は売主が返すよう命じられました。
この事例から分かること
買主は結果的に中間金を取り戻せましたが、第一審では負けています。「手付解除します」と書面ではっきり伝えていれば、ここまで争う必要はなかったはずです。
契約をやめると決めたら、どの方法でやめるのかをはっきりさせ、書面で伝える。これがいちばんの予防策です。
参考:RETIO判例検索「手付解除(黙示の意思表示)」東京高判 令和5年1月31日
「やめたい」と思ったら、この順番で動く
- 契約書で「手付解除の期日」と「ローン特約の期日」を確認する
- 仲介している不動産会社の宅建士に、すぐ相談する
- どの方法でやめるか(手付解除か、ローン特約か)を決める
- 書面で意思表示をする。争いになりそうなら内容証明郵便を使う
どれも、期日が近いほど打てる手が減ります。迷っている段階でも、早めに相談してください。
宅建士メモ:契約の前にできること
空き家の購入で後悔しないために、契約の前にできることもあります。
- 手付金は「万一放棄しても生活が困らない額」にしておく
- ローンを使うなら、事前審査を先に済ませる
- ローン特約の金融機関名・金額・期日を具体的に書いてもらう
- 雪の季節の様子を確認しておく。いきなり買うのが不安なら、まず借りて住んでみる方法もあります(いきなり買わない移住——飯綱町に「まず借りる」という選択肢)
ご相談はツチクラ住建へ
飯綱町やその周辺で空き家の購入を考えている方、契約の内容に不安がある方は、ツチクラ住建(長野県上水内郡飯綱町)までご相談ください。宅建士の土倉がご説明します。
※この記事は一般的な情報をまとめたものです。個別の案件で争いが生じている場合は、弁護士にご相談ください。

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